空隙の可能性

気付けば1ヶ月以上文章を書いていませんでした。まとまって文章を書く時間がほとんどなかったのと、愛用のPowerbookが逝ってしまって写真の整理などがまったく出来なくなっていたのが理由、という言い訳。
とりあえず1ヶ月ほど前に、以前ここでも紹介したWM+associates(http://d.hatena.ne.jp/wm_associates/)のproject-bbオープンハウスに行ってきたので、その感想を少々。


厚切りのハンペンが浮いたような住宅。当日はあいにくの雨、と思っていたけれど、むしろ雨の日に見れてよかったかもしれない。雨にけぶる建築のシルエットがなんとも愛くるしい。


内部空間は以前にも紹介したように、ロの字型の空間が中に浮いている。この、中庭と呼ぶのかヴォイドと呼ぶのかよくわからない中心の空間のスケール感がとても良い。中庭と呼ぶには小さいしヴォイドと呼ぶには大きいこの空間を通して住宅の反対側の一辺の様子を見ることが出来るのと同時に、光や風、雨や音、住宅地の雰囲気などが漏れ伝わってくる。そういう意味では、「空隙」という言葉がこの空間には相応しいのかもしれない。和室に座っていると、空と地面しか見えないのに、この空隙を通して様々な要素が目の前を通り過ぎていく。綿密な断熱計画により寒い日にもほんのり中が暖かくなっていることも合わさって、そこには一種の詩的な空間がつくられる。しかも、それは住宅を外部から閉じることによって生まれる過度な詩性ではなく、中央の空隙を通して伝わってくる様々な情報から生まれる外部世界への期待感から生まれてくる詩性である。(そしてその期待感は3階の塔屋さらには屋上に出て、周囲の街並みや遠く盆地の山並みを眺めたときに一つの完結したストーリーが出来上がる。)この詩性が、クライアントである夫婦にとって適切なスケールにまとめられていることが、この住宅で最も好感を持てたところ。

この住宅は、2人の設計者、1人の構造設計者、1人の設備設計者がほぼ同時並行で設計を進めている。スタディの過程を何度か見てきたので、この設計プロセスが持つ可能性にはとても興味がある。たとえば、このマニアックな通気層の取り方などは、このプロセスの賜物の一つだろう。しかし、project-bbがはたしてこの設計プロセスが持つ可能性を十分に生かしきれていたか、正直のところよくわからない。これは批判をしているのではなく、僕もこのプロセスが持つ可能性を十分には理解しきれずにいるから、わからないというのは本音である。けれども、例えばdot architectsの設計プロセスが示しているような意外性を、今回のプロセスが獲得出来ていたかどうかはもう少し熟考する余地があるかもしれない。

ともあれ、最初にも述べたように雨の日にこの住宅を見ることが出来て良かったと思います。今はやや異様にも見えるこの白いハンペンが、年月をかけてウェザリングにより少しずつより深みを持った表情に変わっていく様子が想像できて、少し暖かい気持ちになりました。